お茶と人の出会いをデザインする。僕たちが日本茶をはじめた創業ストーリー(前編)

LUCY ALTER DESIGN

2019.02.18

お茶にはつくられるまでのストーリーがあります。物事はそれがどんなものであるかと同じくらい、「なぜ」が大事です。みなさんに向けて、関わっているスタッフ、パートナーに向け、僕たちが日本茶をやっている理由をお伝えしたいと思います。

はじめまして。僕は、青栁と2人組のデザイン会社をしている谷本といいます。この2人の会社で日本茶の事業をはじめました。自分たちの言葉を通じて、皆さんに僕たちのはじめたことを知ってもらい、一緒になって日本茶を盛り上げ、楽しんでいただきたいと思っています。よろしくお願いします。

テクノロジーとデザインが、何かに役立つのではないか

僕と青栁とは年が11離れていて、とあるIT企業で青栁が役員をしていて、僕が新卒として入社したという経緯があります。元々デザインが好きだった僕たちは一時期デザインを一切しておらず、ITの事業開発というキャリアを経て、デザイン会社を創業したという、少し変わった会社かもしれません。


――― リーン、アジャイル開発といったIT業界の手法をプロダクトデザインに持ち込む

ここ20年近く急成長を遂げてきたITという産業が成熟するにつれ、僕たちは「慣れ」のようなものが身につくことに危機感をおぼえ、新しいものを生み出したいという衝動に駆られていたように思います。そのときに感じた、まだ見たこともないものを見てみたいという思いはいまも続いていて、活動の原動力になっています。僕たちが興味を持って取り組んできたITテクノロジーやデザインの領域からは踏み込んでいなかった領域へと進むことになったのも、僕たちにとっては自然な流れでした。

「企業 対 消費者」から、目的を共有する「コミュニティ」へ

企業にとって、ネット・SNSによって「世界との距離」が、地理や言語の問題ではなくなり、世界中にいる個人個人と適切なコミュニケーションが取っているか、に変わって来たことを感じていました。「企業とお客さん」の関係は確実に変化していて、二者が対立する構造ではなく、同じ方向を向いて、同じゴールを持つコミュニティのような関係が求めらている。需要減少や後継者不足といった問題が山積みの産業でも、一方的にモノを売るのではなく、その課題ごとお客さんと共有して、一緒に解決していけるのではないかと考えました。そこで、僕たちは「産地、品種によって日本茶の味が全く違う」ことに気づいた原体験をもとに、一般的な流通では出会えないシングルオリジンの個性豊かな煎茶を世界水準の文化にするための事業を立ち上げることにしました。(僕たちが持つ「課題とゴール」については、煎茶堂東京店頭で配布している3つ折りのリーフレットに書いてありますので、よろしければお手に取ってみてください!)


――― 煎茶堂東京のリーフレット

コーヒーは飲むけれど

僕個人としては、幼い頃はお茶が好きで、おやつは練り切り、抹茶を点てて飲むような幼稚園児でしたが、その後、お茶についての関心は深まることなく育ちました。実家を出て一人暮らしを始めたときに湯のみはマグカップになり、コーヒーを愛飲するようになります。サンフランシスコ、メルボルンのコーヒーショップを巡るくらいはコーヒー好きで、いまでもよく飲みます。デザインを学ぶときには、資料として海外の建築やプロダクトを参考にしていましたし、ライフスタイルや考え方も海外の動向に影響を受け、日本に軸があるというタイプではありませんでした。

そんな僕がもっぱらコーヒーを飲んでいたとき、赤道付近からはるばる輸入されるコーヒーは日本で大人気、産地だ農園だ、エシカルだとやっている中、同じくカフェインを含む嗜好性飲料である日本茶、特に煎茶は、悲しいかな全く話題に上っていませんでした。ものすごく身近に生産地があり、わざわざCO2排出をせずにフレッシュな原料が手に入るのに・・・コーヒーのサードウェーブを横目にさざ波のひとつも立っていない(失礼)。これは何か課題があるのだと思いました。

実は、お茶の消費はペットボトル飲料としては増加傾向にあります。また、いまの需要を支えてくれているのはペットボトルのお茶だということは周知の事実です。需要が減少しているのはリーフ(茶葉)で、わざわざ急須を使って飲まなくなっているということです。というのは、過去、オレンジジュースやコーヒーなどの飲料がまだなかった時代には、誰もが当然のようにお茶を飲んでいました。お茶が飲まれなくなったといっても、飲む側としてはジュースやコーヒー、紅茶、スムージーなど、魅力的な選択肢が登場し、お茶を選択しなくなっただけ。厳しいですが、日本茶はその競争に勝つだけの魅力がないということはありありと認識できました。


――― メルボルンで一押しのコーヒーショップ「ST ALi(セント・アリ)」

僕たちのコーヒー、誰かの日本茶

日本茶の世界ではよく「おもてなし」といったキーワードを目にするのですが、実際のところ、お茶よりもむしろカフェでコーヒーを飲む時間、バリスタとのやりとりや心遣いが、僕にとって心癒やされる日常のワンシーンでした。どこか遠くで生産されるコーヒーが身近で、近くの日本茶がどこか遠い存在・・・。まさに、世界との距離は、物理的な距離ではなくなっていたのでした。コーヒーは「僕たちのコーヒー」であり、かたや日本茶は「どこかの誰かのもの」。お茶って古臭くてなんかダサい・・・。農家の後継者不足といっても、自分とは関係のない世界に思えて、正直、当事者意識は持てませんでした。じゃあ、僕たちの日本茶ってどんなだろうか?

そんなことを考えていたその日のランチ。会社の後輩が、奇跡的にも若い茶商さんを紹介してくれたのです。すぐにピンときました。若い茶業関係者こそ、話をしてみたい。健全な問題意識と、既存の枠組みに縛られない取り組みへの意欲があるはず。その後すぐさま連絡を取って静岡へ行きました。茶園や工場を案内していただき、まさにこの日、ブレンドしていないお茶、僕たちにとってのシングルオリジン煎茶の原体験となる「はるもえぎ」に出会います。「お茶の味が全く違う!」いまもお客さんからいただくこの驚きの言葉は、当初は僕自身が感じた体験そのものです。


――― 静岡ではるもえぎを飲んだときの写真

愛でるべきお茶を見つけて、それが好きな人と出会わせる

飲んでみて驚きがあると、味わいに個性があると、お茶は楽しめるんだと気づきました。こんなに美味しいお茶なら、残っていて欲しい。僕は、どんなお茶でも平等に残したいとは思わないけれど、愛でるべきお茶があったらしっかりと評価し、伝えていきたい。そこでもし、そのお茶のことが好きだという人と出会わせられたらいいと思うのです。僕たちがやっている活動はどれも、「産地、品種によって日本茶の味が全く違う」ことに気づいた原体験をもとに、一般的な流通では出会えないシングルオリジンの個性豊かな煎茶を「文化」として嗜むということを伝えています。自分が好きなお茶を、広い世の中から探すというのは大変なことですが、僕たちが持つテクノロジーやデザインの力を使えば、それが可能になるはずです。社会意義や文化的意義を理由に保護するのではなく、単純に好きだから支持される、美しいから応援してもらえる、そんな世界観を持った日本茶があるべきだ―――。あのとき飲んだはるもえぎが美味しくて、僕たちの日本茶事業は始まります。東京茶寮オープンから10ヶ月前のことです。

つづき⇒ 日本茶の3つの「R」を解決する。僕たちが日本茶をはじめた創業ストーリー(後編)


本記事の著者 : 谷本幹人
LUCY ALTER DESIGN取締役兼クリエイティブディレクター。青栁智士と2人組のデザインファームとして2015年にLUCY ALTER DESIGNを創業。2016年に世田谷に「東京茶寮」をオープンし、米フォーブスから「すべてのデザイナーが死ぬまでに行くべきミニマルな茶屋」と称される。2017年に銀座に「煎茶堂東京」を創業し、江戸時代から続く煎茶を現代のライフスタイルに合わせて提案する。両店は一般社団法人日本空間デザイン協会の「DSA日本空間デザイン賞2018」に入選し、「シングルオリジン煎茶」と「割れない透明急須」は2018年度グッドデザイン賞を受賞。「割れない透明急須」は、2018年度ドイツ「レッド・ドット・デザイン賞」を受賞。アジア、ヨーロッパで日本茶のワークショップ・作品展示を行う。

PROFILE

東京茶寮・煎茶堂東京から日本茶の最新トピックをお届けする「TOKYO TEA JOURNAL」Web版です。

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