日本茶の3つの「R」を解決する。僕たちが日本茶をはじめた創業ストーリー(後編)

LUCY ALTER DESIGN

2019.02.18

「前編」はこちら

僕たちは、ブレンドしない煎茶=「シングルオリジン煎茶」の美味しさを知ったわけですが、それだけでは日本茶の事業を起こすわけにはいきません。なぜなら、お茶を飲まない理由は嫌というほど挙げられるからです。できる可能性を探すよりも「できない」と考える方がはるかに簡単でした。静岡で話を聞いているときも、シングルオリジンの煎茶は個性があって中には美味しいのもあるんだけど、「市場に受け入れられない」んだと言われました。僕たちとしてはできないと言われる方が燃えるわけで、いろいろと考え始めました。


――― シングルオリジン煎茶を飲むために開発した急須。

2016年当時の日本茶シーンには、大きく3つの解決するべき課題があると考えました。「Recipe(レシピ)」、「Relation(リレーション)」、「Rebranding(リブランディング)」です。これらの課題は独立したものではなく、それぞれが複雑に絡み合っています。これを解決することが僕たちの具体的な活動であると考えています。

1) Recipe(レシピ)

日本茶は家庭によって「茶葉」と「急須」がそれぞれ異なるため、淹れる方法がとても曖昧でした。もちろん、淹れ方というのは正解がないものであり、それこそが深みではあるのですが、ネット上のレシピは色々と物凄くふわっとしていたのです。

そのことを強く感じたエピソードがあります。はじめに、お茶のことを知りたいと思った僕がどうしたか。当然「ググり」ました。「お茶 淹れ方」。あとから調べてみましたが、この検索キーワードはお茶関連で検索される語句の中で、群を抜いて多いものです。画面の向こうの皆さんに共感しつつも、検索してみても僕はお茶の淹れ方が結局のところわからなかったのです・・・。

<インターネットで検索した様々なレシピを元に導き出されるレシピ例>

茶葉
茶さじ約1杯、あるいは2杯? または、だいたい2〜4g程度。
お湯
湯のみに一杯、あるいは約60cc〜100mlくらい。中級の茶葉なら熱めのお湯でもいいが、上級の茶葉なら少し冷ましたお湯を使う、約60〜85℃程度。
蒸らし時間
30秒〜1分くらい蒸らして、湯のみに注ぐ。二煎目は「やや高め」のお湯でさっといれる。茶葉によっては三煎目まで飲んでも良い。

正直これでレシピというのは無理があります。どれか一つ、信憑性の高そうなレシピを選んだとしても、自分が持っている茶葉で美味しく淹れられているのか不安になりますし、使っている急須が茶葉やレシピと合っているか分かりません。それに、自分の好みに合わせたいときにはどこを変えればいいのか見当も付かない。こうなってしまう理由は、「茶葉」と「急須」の両方ともが決まっていないからでした。

お茶の生産者は急須や湯沸かしケトルを製造しないわけで、お客さんのキッチン事情やうつわのサイズによって言えることが全く異なってきます。茶葉もピンからキリまで提供していて、新茶、一番茶、二番茶、茎茶、ほうじ茶、粉末茶、ティーパックタイプなどなど・・・幅広いお客さんの要望に応えるために、「レシピは茶葉によって変わります」という歯切れの悪い状態に。それと定義がよくわからない上級〜中級、普通、特選、厳選なんかも僕たちを惑わせる要因です。こうなってくると失敗を重ねながらお茶のレシピを見つけていくしかなくなりますから、新しくお茶を飲んでみようという人がお茶を楽しむ前に挫折してしまいます。

いわば、急須はハードであり、茶葉はソフトです。僕たちはお茶の成分が抽出される理由に基づき、取り扱っている茶葉が美味しく淹れられるような急須を開発しています。だからこそ、美味しく淹れられるレシピが誰にでも伝えられ、僕たちの茶葉であれば安心して手にとっていただけます。また、実際に僕たちの直営店で日々使用することで、自分たちの製品の使い勝手がジャッジでき、お客さんにはお店で飲む味が「家庭でも再現できる」ということを自信を持って伝えることができます。


――― 「再現性の高い」お茶の淹れ方が学べるワークショップ

2) Relation(リレーション)

リレーションとは、人と人とのつながり、顧客との関係性のことです。日本茶の世界では、生産者と消費者が上手につながっていませんでした。茶業は一見、「農業」に見えますが、1次産業にしては非常に複雑な構造を持っています。栽培から加工、流通、販売までの流れが長いため、本来繋がるべき生産者と消費者の間に隔たりができてしまっていました。


――― 茶を摘んでから、実は長い工程がある

――― このような機械工程があり、その後に仕分けや焙煎、ブレンドがある

煎茶は、茶葉を摘んでからテーブルに届くまで、長い工程があります。収穫した茶葉を蒸して、揉んで、仕分けて、焙煎して、合組(ブレンド)するという工程があり、加工業や製造業などの2次産業に近いジャンルです。それゆえに、大きな工場の必要な製造や保管、ブレンドでの商品作りは専門業者に任せ、農家は農業に専念するという構図となっています(それ自体が問題ではありません)。

農家から出荷された茶葉は、一般的にブレンドして商品化されています。ブレンドは、クオリティの安定化と消費者の好みに合わせた味作りができるため、商品開発において非常に重要な役割を担っています。日本茶はワイン同様、その年の気候、栽培方法、製造方法、樹齢によっても味が変わってしまうため、複数の茶葉をブレンドすることで狙った味を作ります。たとえ中身の茶葉が変わったとしても、同じ味を再現して「同じ商品」としてずっと販売することができます。(実際には味が変わりますが!)消費者にとっては、ある程度安定して好みの美味しいお茶を飲むことができるので、ブレンドは消費者サイドに立った技術と言えます。

「このお茶は、誰に飲まれているかわかりません」

生産者サイドからすると、ブレンドは短期的にはいい面がありますが、長期的には課題が浮き彫りになってきました。あらゆるお茶がブレンドされているいま、農家はどこで自分の茶葉が使われているのかわからないのです。自分の茶葉がどのブレンド茶に使われ、どこへ流通したか全く知らない農家が非常に多い。買ってくれる問屋がお客さんであり、問屋が買ってくれるお茶を目指している。そんな状況だから、お茶を飲んでくれている消費者の声を聞くことがなく、本当のニーズと溝ができています。自分の茶葉が美味しいのか美味しくないのか、消費者の評価がわからないし、消費者もどのような理由で美味しいお茶なのかがわかりません。

ましてや、いまでは味ではなく「早く収穫すること」が価値になっています。ブレンドでたくさん売れていた時代は良かったのですが、どこも均一化した商品づくりになり、魅力的な商品を作れていないためです。というのも、これまで、お茶の個性(=品種香)は欠点とされ、極力さけられてきました。国内の生産量では「やぶきた」という品種が4分の3を占め、それ以外は6%以下の生産量でひしめきあっている、多様性の少ない世界です。ブレンドも後押しして味が似通ってしまい、価格差の根拠が曖昧になっているのです。売るのはお店任せにしてきたツケもあり、お茶の魅力を伝える力がなく「新茶」という季節の売り出し一辺倒になっています。お客さんも「新茶だからいい」という偏った知識しか得られません。そうすると、新茶の時期に1日でも早く収穫して売りに出さないと、遅いことを理由に買ってもらえず、買い叩かれてしまう。気温が低く収穫が遅い地域から自動的にお茶がなくなっていく構造です。つまり、消費者には、味も価格も「一択」を求める一方で、市場に出回らないものが相当数埋もれていた、という状況でした。


――― 標高が高い「遅場」の茶園ならではの香り・味わいがある(著者左)

そうした仕組みとなっていることは理解したけれど、僕は遅くてもいいから美味しいお茶が飲みたい。気温の寒暖差があってじっくり育つ香り高いお茶がなくなっていくのは消費者からすれば望んではいないことです。未成熟で味気ないお茶よりも、生産者が思うベストなお茶を飲ませて欲しい。それに対してファンが付いて毎年楽しみにする(最終的には摘みに行く!)。僕たちは生産者と消費者がつながるリレーションができれば、それが可能になると考えています。そのために、茶葉の栽培から製造工程における「どこで誰が栽培した品種で、どのような工程を経たか」といったトレーサビリティ情報のほか、味わい、香り、ストーリーといった要素を伝えることで、僕たちのお客さんはお茶の固有の魅力を理由にお茶を買うことができます。

ワインのように、今年の出来を楽しみにするライブ感

シングルオリジン煎茶はワインと同じく、その生産年度の茶葉を売り切ってしまったらもう二度と同じお茶は飲めない「一期一会」の商品です。品種や農園、標高や焙煎の温度までも情報を提供しており、さらに、全く同じ区画の茶葉でも年度によって味わいが変わります。出来の良かった農家のお茶でも、来年の茶の出来がいいのかをみんなドキドキしながら待つというわけです。この一体感というのは、消費者と生産者がつながって初めて生まれるものではないでしょうか。いつでも同じ味わいという利便性とは引き換えに、お茶づくりのライブ感も一緒に味わっていただきたい。僕たちは、販売の効率は良くないけれども生産者の熱量が伝わるシングルオリジンを掲げ、直営店で社員のスタッフたちが時間をかけてお茶の良さを伝えていくということを大切にしています。




――― 店頭、ときには海外でお茶の魅力を伝えていく

3) Rebranding(リブランディング)

日本茶をやっているのだから、さぞ日本のものが好きなのだろうと思われるかもしれませんが、僕は日本のもの・和風のものについては批判的に見ていました。自分が好きになれるような日本のものが欲しいと思った、というのが正直なところです。過去のイメージを脱ぎ捨て、日本茶はこれから変わっていくんだ、という業界全体の動きを促すような新しいブランドイメージが必要でした。

「古き良き日本」を、何度も焼き直している

僕は、世の中で「日本らしい」とされているものが、日常的な感覚とは大きく乖離していることに違和感を感じています。畳の部屋で和食を食べるのも日本の生活の一部とは思いますが、実際のところフローリングにテーブルというスタイルの家庭が、いまの自然な日本を表しているのではないかと思います(良し悪しは置いておいて)。ですが、商品やマーケティングに反映される日本像は、現代の日本人とは無縁のステレオタイプな表現が多すぎる。過去のある一時期の日本に「日本らしさ」を求めすぎているのではないか、とモヤモヤするのです。過去の日本の良さ・素晴らしさは否定しませんが、これからもずっとアップデートされないまま、深く考えずに過去を焼き直しているような状況は、いまを生きる日本人としての価値が付加されていないように思えて、なんだかイヤだな、という反発心があったのです。


――― 日本らしさを求めるより前に、美しく

単純に「好きだからお茶に関わる」層が大事

そういったステレオタイプな日本茶のイメージは、国内外の感度が高い人たちにとって日本茶と距離を置く一因になっていたと思います。日本茶が好きだということは、少し物好きというか、一風変わった高尚な趣味というような空気感を感じました。それは無意識的に「日本のもの=古典的で難しい」という視点に立っています。しかし、日本のものであることと、先進的で分かりやすいということは両立させることができるはずです。日本茶は、ハイコンテクストで格式の高い茶道と、マスプロダクトで機能的なペットボトルに二極化していて、一般の方が単純に「好きだからお茶に関わる」には余白がとても小さいようにみえました。お茶人口が増えるためには、「難しいことはまだわからないけれど、なんとなく好きだから/カッコいいからお茶を飲んでみよう」という人がとても大事です。まずは誰しも気軽に参加できて、知るほどに深みがある=ハマってしまう日本茶の世界。それが、茶道とペットボトルの中間に位置するカルチャーとしての日本茶ではないかと思います。僕たちは、そういった日本茶カルチャーをつくる上で、イメージの刷新(リブランディング)が必要だと考えています。そのため、意識的に「日本的なモチーフ」の使用を避け、代わりに、無駄を削ぎ落とすこと、余白を持つこと、水平と垂直の直線を使用することとし、日本の情感が「滲み出るもの」を目指しています。


――― 自由に選んで自分でブレンドすることが楽しめる「参加型」商品

日本茶を日常と接続し、文化にまで引き上げる

これらの「R」を解決することで、美味しいお茶をきちんと評価する仕組みをつくり、シングルオリジン煎茶が文化として成立する世界を目指しています。僕たちが日本茶にまつわるデザインする上で、いまの「日本」や「日本的な価値観」がどんなものか真の意味で理解しているとは思いません。誰しも、いち個人として「日本」や「日本的な価値観」について内側と外側を行ったり来たりしながらまじまじと眺めて、後天的に自分なりの解釈をつけるほかありません。少なくとも、僕たちは僕たちなりに考えた解釈で、日本茶をいまの日本らしさにダイレクトに接続したいのです。ポップアートの意図する構図と同じく、僕たちは日本茶を額縁に入れられた存在として丁重に扱うのではなく、日常とつなげることで文化にしていきたいと思います。


――― 東京茶寮(三軒茶屋)

――― 煎茶堂東京(銀座)

――― 煎茶堂東京(大阪)

世界初のハンドドリップ日本茶専門店「東京茶寮」や、銀座/大阪のシングルオリジン煎茶専門店「煎茶堂東京」では、そうした想いを具現化しています。また、店舗だけでなく、「煎茶堂東京オンライン」など、オンラインでも日本茶が楽しめるようなコンテンツを制作しています。そして、まだまだこれから皆さまと楽しめる取り組みはたくさんご用意していくつもりです。僕たちと一緒になって日本茶の世界に踏み入れていただけたら嬉しく思います。お茶のことで何かあれば店舗のスタッフ、僕含めいつでもお声がけください。どうぞ、よろしくお願いいたします。

★東京茶寮ティーミーティングの次回開催は「2019年3月3日(日)17時〜@東京茶寮」です

<東京茶寮ティーミーティングとは>
東京茶寮と煎茶堂東京のユーザーの方とのコミュニケーションを目的に、お茶を飲む会です。デザイナーが在席し、生の声をもとに今年の新茶の仕入れの方向性を考えたり、新製品の企画・改善・デザインに活かしていく場としても考えています。年齢・性別・国籍を問わず、東京茶寮や煎茶堂東京のプロダクトに対して熱量が高い方にお会いできたら嬉しいです!
不定期:東京茶寮ティーミーティング

インスタグラムではいつでもご意見お待ちしております。
https://www.instagram.com/green_brewing/

つづき ⇒ 全国の茶園を訪問している件。(執筆中)


本記事の著者 : 谷本幹人
LUCY ALTER DESIGN取締役兼クリエイティブディレクター。青栁智士と2人組のデザインファームとして2015年にLUCY ALTER DESIGNを創業。2016年に世田谷に「東京茶寮」をオープンし、米フォーブスから「すべてのデザイナーが死ぬまでに行くべきミニマルな茶屋」と称される。2017年に銀座に「煎茶堂東京」を創業し、江戸時代から続く煎茶を現代のライフスタイルに合わせて提案する。両店は一般社団法人日本空間デザイン協会の「DSA日本空間デザイン賞2018」に入選し、「シングルオリジン煎茶」と「割れない透明急須」は2018年度グッドデザイン賞を受賞。「割れない透明急須」は、2018年度ドイツ「レッド・ドット・デザイン賞」を受賞。アジア、ヨーロッパで日本茶のワークショップ・作品展示を行う。

PROFILE

東京茶寮・煎茶堂東京から日本茶の最新トピックをお届けする「TOKYO TEA JOURNAL」Web版です。

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RECRUIT

日本茶を次の世代に伝えていく仕事。東京茶寮・煎茶堂東京のティーコンシェルジュ・スタッフ募集

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